木で大規模建築物を建てるということ

木造建築を見直し、
産業と環境を守るという考え方

古くは、日本のほとんどの建物は木造でした。しかし、1959年の「伊勢湾台風」による被害によって日本建築学会が「木造禁止決議」を行って以降、日本では住宅以外で木造建築が採用されることはほとんどなくなりました。

しかしこうした現状は、林業・木材産業の景気低迷と、森林の育成サイクルの乱れを生み出してしまっています。

本来、建築産業と林業・木材産業は互いに結びつくことで、繰り返し生産可能な資源である木材をバランス良く使い、育てるものですが、木造建築の割合が減ったことでこのバランスは徐々に崩れてしまっています。

しかし、地球温暖化防止のためにCO2の削減が叫ばれる今日において、森林の育成サイクルは非常に重要です。計画的に木を植え、森林を育成し、高齢な木を木材として使用し、また木を植える――。このサイクルのなかで若い森林は多くのCO2を吸収し、高齢になり木材になってからもCO2を固定化して地球温暖化防止に大きく貢献します。

そのため今日では、林業・木材産業を守る意味でも、森林の育成サイクルを取り戻し環境保護につなげる意味でも、「木で建物を建てる」ということが見直されはじめているのです。

また、2010年の10月に「公共建築物木材利用促進法」が施行され、木造率の低い公共建築物に対して木材の利用が推進されて以降、建物の構造体を木質系材料とする「木造化」、内装その他を木質系材料とする「木質化」のニーズが高まっています。

大規模木造建築とは?

私たちは木造建築のうち、以下のような住宅以外の建築を大規模木造建築ととらえています。

大規模木造建築の例

児童施設(保育所・幼稚園・こども園・託児所)、医療福祉施設(老人ホーム・介護施設・障害者施設)、オフィス(上から4階までは耐火上木造可能)、医療施設(クリニック)、商業施設など

大規模木造建築の技術について

木造は鉄骨造やRC造に比べて「火に弱い」「強度が低い」というイメージがあり、大規模建築には向かないと思われている方も少なくありませんが、近年では建築技術が向上し、火に強く強度に優れた大規模木造建築が建てられるようになっています。

大きな木材と防火措置で耐火の問題をクリア

「木は燃えやすい」というイメージがありますが、そもそも木は自然燃焼力が弱く、260℃前後まで達しなければ燃えません。小さい木材は、表面積が小さいため燃焼に必要な酸素が内部まで供給されやすく、すぐに燃えてしまいます。

ですが、大断面の太い木材は酸素が内部に供給されにくく、燃焼には時間がかかります。また、燃えて炭化した表面部分が断熱材の役割を担い熱を伝えにくくするため、炭化速度を失速させるという特性も持っているのです。

つまり、大断面の太い木材であれば、「木は燃えにくい」といえます。また、大規模木造建築には防火措置が義務づけられており、防火措置がしっかりと成されていれば火災による被害も最小限に防ぐことができ、法律の基準に沿った耐火性能を確保することができるのです。

集成材の成型技術で強度・剛性・乾燥割れの問題をクリア

製材は樹種ごとに部材の大きさに限界がありますし、木材が乾燥していくうえで「割れ」が生じやすいため、木材の継手や仕口の方法も限られてきます。木材の乾燥割れを防いだ高い強度や剛性が必要となる大断面部材については含水率を抑え、必要な強度を確保した木材を接着成型した「集成材」を使用することで、木造建築の可能性は広がってきています。

なお、この集成材を用いた木造建築のあり方は、木材を余すことなく使用できる環境にやさしい方法としても注目されています。

製材の使用について

製材(木材)の利用は、国や行政が環境問題の観点から森林育成の一環として推奨しており、特に各地元の地場産の木材の利用をすすめています。しかし、大規模木造建築に使用するにはそれに見合う強度と剛性のもの、十分な大きさのものを揃えにくいというデメリットがありますが、ある程度の大きさの木であれば組み方を工夫することで十分な構造強度を持った骨組みとして空間をつくることができます。その場合、製材の確保や加工に時間がかかり、準備する時間を十分にとる必要があります。

そのため製材を使用する場合には、手間や時間などのバランスもみて、集成材と併用することもひとつの方法です。

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